前回のインバーター記事(三相インバーターをつくりたい! 其の一)を公開してから2か月も経ってしまいました。いまいちやる気が出なかったので放置していたわけですが,2か月もあればインバーター関連の知識もそれなりに増えるもので,前回の記事も今見るとかなり修正・変更箇所があります。
前回の最後の方で「次は,細かいところ(マイコン用の電源とか)を作る予定です。」とか言ってますけど,記事を細かく分けると面倒&年内に完成しなくなるので必要なとこだけちょろっと書いていきます。とりあえず,今回は主回路の電気容量とか抵抗値を決めることにしました。
(間違いに気づいた方は,下部のコメント欄か連絡先のどれかで教えていただけるとありがたいです…)
記事中の回路図はKiCadを用いて作成しました。
※追記(2018/6/21):放電阻止型RCDスナバの回路図を間違えていたので修正しました.修正前の回路では,ハイサイド側のスナバ抵抗に常時電流が流れるようになっていました.それと,修正ついでにスナバ回路のところを少し加筆しました.
「100V定格の三相モーターなんて無いだろ」という気付きを得たので,倍電圧全波整流回路で200Vに昇圧するようにしました。(最大値282[V]・実効値200[V])
回路図の左側から順番に,
の合計6つです。
1.倍電圧全波整流回路のコンデンサ
コンデンサの容量は,リップル電圧と出力電圧の平均値を考慮して決めます。 まずはリップル電圧を求める式
次は出力電圧の平均値を求める式
倍電圧回路で昇圧されているので,計算する際はV=200とすれば良いはず……。
試しに,電源電圧200[V]・負荷電流25[A]・電源周波数60[Hz]・コンデンサ容量0.001[F]で計算してみたところ,178.68[V]となりました。コンデンサをもっと大きくすれば,平均電圧も上がります。
2.突入電流防止抵抗
平滑回路にコンデンサを使用しているため,電源投入した瞬間には定格電流の10~100倍の電流が流れます。スイッチオンの瞬間にコンデンサへ流れる電流量は次の式で表されます。
こんなところにもネイピア数(自然対数の底)が出てくるんですね。
試しにRs=0.4[Ω],C=1000[μF]で計算してみました。
Rs=0.4[Ω],C=1000[μF]これ別に抵抗要らないんじゃ……。とはいえ,突入電流はモーター起動時にも発生するので設置しておきましょう。
それと,この計算でのRsは適当な数値を入れただけですが,コンセントの内部インピーダンスは大体0.2~0.5[Ω]程度らしいです。
**突入電流防止抵抗の値(R)**は,先ほどの式をRs → Rs + Rとして計算して適当な値を決めます。
※ 電圧波形が正弦波になっているため,実際の突入電流の大きさは電源を入れるタイミングによって変わります。
3.平滑コンデンサ
構成の都合により平滑コンデンサと呼んでいますが,倍電圧回路で既に整流~~・平滑化~~(平滑化は行われていなそうですね。正直よくわかりませんが。)が行われているため,主に接地用コンデンサとしての役割で設置しています。(中間点接地)
大きさは適当に,高周波特性が良いフィルムコンデンサを設置するつもりです。
4.ブリーダ抵抗
インバーターの電源を切った後もコンデンサが充電された状態だと危険なので,ブリーダ抵抗を繋げて放電する必要があります.
コンデンサ電圧が63%に減衰するまでにかかる時間は以下の式で求まります。
なんで63%なのかってのは知りません。今回は知らなくても問題ないので,まあ良しとしましょう。
定常時の消費電力は以下の式の通りです。
大体1[w]に収まるくらいにしておけばいいんじゃないですかね。
5.回生抵抗
モーターを減速する際には減速分のエネルギーが回生電力となるので,回生抵抗を設けて主回路の電圧上昇を抑える必要があります。
発生する回生エネルギーは,
となり,回生エネルギーは電力に変換すると
となります。これを書き換えると
となるので,同じエネルギーでも,回路に流れる電流と回生時間が少ないほど回路の電圧が上昇することがわかります。つまり,回生抵抗を使わないで停止させようとすると最悪回路が壊れるよってことです。
コンデンサ平滑回路の場合,回生分を電力系統に戻すことができないため回生抵抗で消費するしかありません。(少しはコンデンサにエネルギーを溜めることもできますが,許容値を超えると壊れるのでやはり回生抵抗は必要です。)
6.スナバコンデンサ,7.スナバ抵抗
スイッチングの際には,配線のインダクタンスによりサージ電圧が発生するので,それを低減するためにスナバ回路を設けます。
スナバ回路といってもいろいろあるのですが,今回は放電阻止型RCDスナバを使用します。
各方式ごとの特性は大体こんな感じですかね。
- RCスナバ・・・チョッパ回路向け。大容量のIGBTでは,スナバ抵抗を小さくする必要があるためコレクタ電流が増加する。また,高周波動作ではスナバ抵抗の発熱が大きくなる.(小容量向き)
- 非充電(充放電)型RCDスナバ・・・サージ電圧の吸収効果は大きいが,RCスナバと同様に高周波での発熱が大きくなる.放電阻止型RCDスナバと比較して,損失が極めて大きくなる。(中容量向き)
- 放電阻止(充電)型RCDスナバ・・・スナバ抵抗での発熱が小さく,サージ電圧の吸収容量が大きい.サージ電圧が印加されたときのみ有効に働くため損失が小さい.(大容量・高周波向き)
前回の時点では非充電型RCDスナバを採用していましたが,発生損失の点から放電阻止型RCDスナバに変更しました。(非充電型RCDスナバの発生損失式は一番下のおまけ欄に書いてあります。)
IGBTのすぐ横に付いているのは還流ダイオードで,逆電圧が加わった際に素子の破壊を防ぎます.
動作について
上記の回路図を使って,ハイサイド側のスナバ回路の動作について説明します.
まず,インバーターの電源を入れて主回路に電圧が加わると,スナバ抵抗 R1 を通してスナバコンデンサ C1 が充電される.充電が完了するとコンデンサには電流が流れなくなるため, C1 の電圧は電源電圧 E[V] と等しくなる.また,電流が0[A]なので,スナバ抵抗 R1 での電力消費も0[W]になる.
素子がターンオフした際に発生するサージ電圧は,素子の両端に加わる.電源電圧 E[V] 以上のサージ電圧が発生したとき,サージ電流は C1 と D1 を流れ, C1 を更に充電する(経路1).サージ電圧が収まり始めると, C1 の電圧が E[V] 以上であるために放電が始まる(充電のときとは逆向きの電流が流れようとする)が,充電に使用した 経路1 にはダイオードが接続されているため,逆向きの電流を流すことは出来ない.そのため,放電は 経路2 を通して行われる.経路2 にはスナバ抵抗 R1 が接続されているため,大電流が流れることもない. C1 の電圧が E[V] まで下がれば,放電は終了する.
ハイサイド側の動作が解れば,ローサイド側も理解できると思います.
放電阻止型RCDスナバ抵抗の発生損失 放電阻止型RCDスナバのコンデンサ容量
次のターンオンまでに蓄積電荷の90%を放電する条件での放電阻止型RCDスナバ抵抗の値
スイッチング周波数は20[kHz]程度にする予定です。
スナバ抵抗を低すぎる値に設定すると,スナバ回路電流が振動し,IGBTのターンオン時のコレクタ電流尖頭値も増えるので,上の式を満足する範囲で極力高い値に設定してください。
引用:2
ということらしい……。
主回路で使用する主な式はこれで全部です。(ゲート抵抗とかあるけど,それは素子選びが終わってから決めます。)
抵抗値とか全部決めてしまう予定でしたが,予想以上に記事が長くなってしまったので数値決めは次回行うことにします。
その他の数式やグラフ,回路の詳細な動作原理に関しては,参考文献をご参照ください。
【参考文献】
- 森本雅之:「入門インバーター工学」,森北出版株式会社,(2015) 1
- 五十嵐征輝:「パワー・デバイスIGBT 活用の基礎と実際」,CQ出版,(2011) 2
- 山村昌,大野榮一:「パワーエレクトロニクス入門」,オーム社(1997) 3
おまけ
丸で囲った部分が充放電型RCDスナバです。(RCD:ResistorCapacitorDiode)
放電阻止型RCDスナバの発生損失式に比べて項が一つ多いので,損失が大きくなるのは一目でわかると思います。